プロセスレコード

水商売をしていました。看護師になりました。

患者の多様性(笑)を学んできた

 

私がキャバクラで働きながら看護学生をしていた頃、医療系の学生の大学・専門学校外での勉強会というものは、学部を問わず非常にアグレッシブに行われておりまして。

 

小規模なサークル的なものから学会がバックアップしているものまで、漠然と「20年後にこの人達と医療の中核に立ったらきっと楽しいだろうな」と思わせる力のあるものがそこら中に散らばっていました。

 

そんな中で一時期流行していたのが、例えばLGBTについて、例えば貧困について、例えば性風俗について、つまり「いろんな人が患者として病院に来ることを知ろう」みたいな、普段出会うことのない人たちについて学ぼうといった趣旨の勉強会でした。

 

確かに医療系の学生の中には、所謂マイノリティの人々と出逢ったことのない方が多くいます。

医療現場では患者が何を思っているかなんてお構いなしにショッキングな病態の説明を喋り散らす医師が大半ですし、看護師もフォローしませんし、実際病院で働いてみると、医師も看護師も多数の患者をみなければいけない中で患者一人ひとりに寄り添っている余裕がそもそも無いことにも気付きますので、学生のうちから「いろんな患者がいる」という事実に向き合うのは悪いことではないと思っています。

 

ただ、皆が知らないことだからといって、現役の医療職者ですら、倫理観の乏しい勉強会やら何やらをするのはちょっと違うんじゃないか、というのが正直な気持ちです。

 

2年ほど前にどこぞの病院の医師が講師をしてくださる、「患者の多様性を考えよう!」みたいな勉強会に参加しました。

講義とグループディスカッションという形を取っており、講義の内容は共感性云々、要するに相手の立場になってものを考えましょうという内容だったものの、グループディスカッションの内容がヒサン。

 

子どもを小児科に連れてきた母親がインフルエンザのワクチンを打たせたくないとごねている場面を2パターン、ロールプレイしてくださったのですが、

 

1パターン目は、「裕福な育ちで、小学校から大学まで女子校育ちの箱入り娘で、公務員の夫と1人の子どもを持ち、ママ友からワクチンは効かないだけでなく副作用で有害だという噂を聞いて受けさせるか迷っている『インテリジェンスの高い』専業主婦」

 

2パターン目は、「片親に育てられ、高卒で、町工場で働きながら3人の子どもを育てており、貧乏故にワクチン代をケチろうとしてワクチン接種を拒否している口の悪い『アッパーな』シングルマザー」

 

でした。

「この2人の母親が子どもにワクチンを受けさせるために医師はどんな説明をするべきでしょうか。」というのがグループワークのテーマで、グループで出る意見は「1パターン目の母親には分かる範囲で医学的な知識も伝える」「2人目の母親には母親としての自覚を持つよう促す」云々……

  

確かに情報過多のせいでの「ワクチン受けさせたくない」と、経済的に追い詰められている状況での「ワクチン受けさせたくない」に包まれる背景には圧倒的な違いがありますし、それをきちんと解った上で医療者が会話をしなければ容易にコミュニケーション不全に陥りますから、そういった意味で比較した症例は悪くなかったのかもしれません。

 

それでも、履歴書的な所属だけで患者のことを分かった気になって良いよと学生に向かって堂々と伝えてしまう先生方のモラルというか見てきた世界の狭さにはとても驚きましたし、

そもそも学生の中に「アッパーな」生き方をしてきた人がいる可能性にすら思い至れないんだろうなと呆れてしまいました。

 

私が思うに、この講師に圧倒的に足りないものは、

患者の多様性は患者のニーズの多様性の話であって、患者の所属の話では無い。

という意識です。

 

この勉強会では、母親の履歴書上の育ちばかりがフォーカスされて、「頭の良い人への説明」「バカな人への説明」という2つの視点でしか患者が分類されていません。

 

例えば2パターン目の「アッパー」な母親に関して言えば、工場勤務で子ども3人育てている状態で何が起きるか。彼女の育児サポートはどのくらいあるのか、彼女の育児ストレスはどのくらいのものになるのか、子どもと関わる時間は取れているか。医療者が気にしなくてはならないのはそういったところじゃないのでしょうか。

 

1パターン目の母親だって、旦那の育児への協力は得られているのか、ママ友の噂以外の情報収集能力・情報リテラシーはどのくらいあるのか、そういったところだって医療者が気にかけるべき部分だと感じます。

 

女子大出身とか、旦那が公務員とか、片親育ちとか、工場勤務とか、そんな履歴書にも役に立たないような情報を羅列して患者の何を分かったつもりになるのか。そもそも、「こういう育ちの人はこう考える」なんて分かりやすく並べられるほど人間は単純では無い筈です。

 

「患者のニーズはどこにあるのか」「患者は何に1番困っているのか」を探る視点を持たずに「大卒だから論理的な考え方」「非正規雇用の人だから短絡的な考え方」なんて分類をいくらしたってキリが無く、患者にとっては大して役に立たない上に、医療者にとっては、いつまで経っても患者と分かり合うことなんてできずに何度でも途方に暮れる羽目になるでしょう。

 

医療者が、学生のうちから患者の精神的・社会的なことを知ろうとする風潮って本当に素敵。「理想の医療」なんてものを信じられるのも学生のうちだけです。

だからこそ、「我こそ講師」と思う現役の医療職者には、「患者のニーズ」という視点をどうやって説明するのか、もしその場に医療不信に陥りやすい状況の患者がいても同じ講義ができるのかと考えながら講義をしていって欲しいなと思う次第であります。