プロセスレコード

水商売をしていました。看護師になりました。

田舎に暮らして東京の素晴らしさに気付きました

 

水商売を卒業し、看護師になって3ヶ月半が経ちました。

 

私は東京生まれ東京育ちなのですが、現在は東京から電車で2時間弱くらいのプチ田舎の総合病院で働いています。といっても今流行りの「地方移住!」とか「地方創生!」とかではなく、奨学金云々の至って現実的な事情により、最後まで東京にすがりつくも失敗してやむを得ず引っ越してきただけです。

 

「東京ってこわい」は地方出身の方から非常によく聞かれる言葉ですが、東京での生活しか知らない私が移住して思うのは「東京ほど優しい場所は無い」ということ。でもなんだか彼等彼女等の怖がりも無下にできないものな気がする。というわけで、東京の何が私にとってこんなに救いなのか改めて考えてみようと思います。

 

田舎とはいっても今住んでる場所には電車は30分に1本はあるし、自転車で10分くらいの場所にコンビニもスーパーマーケットもあるし、駅近くに住んでいるため水や米はネットスーパーという便利なサービスで調達できるのでそこまで田舎とも言えないのでしょうが、この時期に立ち込めるむわっとした緑の匂いや車社会の閉塞感は「小学生時代の夏休みに旅行で訪れた山奥の旅館」と大差ないのでやはり田舎なのだと思います。

 

そんな環境で過ごしてみて感じた、東京の唯一にして絶対的な魅力は、東京ほど全ての人に対して寛容な場所はないということ。

 

東京で出逢っていた、地方出身の人はよく「東京の人は冷たい」と言います。東京に住んでいる時はいまいち実感がわかないので「ふーん」と聞き流していたのですが、自分が田舎に住んで、田舎の親密で温かな人付き合いには「定型句」しか許されないとつくづく感じます。

 

東京に住んでいた時は、レズビアンやトランスジェンダーの友人達とのラブホテル女子会で「彼氏欲しい」「彼女欲しい」「ちょっとシリコン足そうかな」と各々好き勝手言いまくり、

よく行く新宿のバーで偶然隣に座っていた美しいお姉さんが「30年間私の言うことを聞いてた旦那が急に『ずっと我慢してたんだ』とかキレだしたから離婚した」といういろんな意味でびっくりな話を聞くことも珍しくなく、

友人からの「友達と飲んでるから来て!」というLINEに誘われて渋谷に行けば、アフリカの名前すら知らない国から一時帰国したいかにもヒッピーな青年からパーマカルチャーについて熱く語られる一夜を過ごし、

毎日が初めて触れ合う価値観の連続でそれはそれは楽しかったものです。

 

地方に住んでからはそういった付き合いができる人と出逢える機会は全くありません。

 

まだ3ヶ月半しか住んでない?いやもう3ヶ月半も住んでる。同期の看護師達は毎週のようにうちに遊びにきていて、先輩からはしょっちゅう合コンに誘われ、隣の駅のジャズバーでは常連の扱い。

それでも、自分が話していて心から楽しいと思う人にも、クレイジーだと思う人にも、面白いくらい出逢えないものです。週刊誌のゴシップページに、あるいはファッション誌の特集ページに載っていそうな話に、思想に、適当に相槌をついて同意しておけば「仲間」とみなされて休日に買い物のために車を出してくれるのが田舎の付き合いだと身を以て実感しています。

 

人間は自分と違うものが排除された場所に居心地の良さを感じるものですから、同じ価値観が軒並み揃っていることが分かり、「みんな仲良し♡」ができる田舎は、一定の価値観を疑うことなく従順に生きられる人にとってはとてもとても心地良いものだと思います。そしてそのような生き方は決して不幸では無く、あれこれ考えて答えの出ない、私を含む連中よりもよっぽど幸せだと思います。

 

ですが、彼等彼女等の居場所は、定型的な価値観に染まることのできない誰かを排除する、つまり誰かを逃げ出すくらいに傷つけることでしか担保されないものです。

 

学生時代、地方出身の、鬱病で摂食障害の友人が

「実家に帰れば親もいるんだけど、東京ですら『朝起きられないとか努力が足りないだけなんじゃないの』って言われることもあって、地元に戻ったらもっとひどいだろうから、何があっても帰れない。私の居場所はあそこには無いよ。」

と言っていたこと、今になって痛いくらいに実感します。

彼女のような人はきっと早い段階で東京はじめ都会に出てきているだろうし、そうなると田舎に残るのは、良く言えばゆったりとした、悪く言えば偏狭な視野の人達しかいないのです。

 

そしてそんな、田舎に居場所があるくらい定型的な考え方をしている人が「東京より田舎の方が良い」なんて言っているのを聞くと、田舎の価値観にはどう頑張っても馴染めないであろう私なんかは、彼等彼女等の浅ましさへの苛立ちと嫉妬でさらに敬遠してしまい、そしてそんな東京人の態度は彼等彼女等にとって「東京の人は冷たい」バイアスを強化する要因になるのだと思います。

 

田舎に帰りたい彼等彼女等は、理解できなくてクレイジーなものだらけの東京が怖いのかもしれません。毎日のように新しいものに出会う東京では、「視野の広がりを楽しむ」という価値観をスパイスとして持っていなければやっていけないのかもしれません。

 

確かに田舎に比べて東京は、ひとりひとりの相手と過ごす時間が短くなりがちで、だから「付き合いが薄い」と言われる部分もあるのでしょうが、本音も言えない・聞けない相手とだらだらと半日過ごすより、2時間でも3時間でも言いたいことを言える相手と心から笑ったり「生き辛いねー」って言い合える方がずっと濃い付き合いなのではないかと思います。

 

私は、東京の人は冷たいとどんなに言われていようと、機嫌が悪い時に機嫌悪く歩いている私を「依里さん怖い」じゃなくて「東京の人怖い」とカモフラージュさせてくれる東京が好きで、そんな東京がだれかから悪者扱いされるのが少しだけ悲しい。東京がしんどい原因は東京じゃなくて貴方にあるんでしょう、と言いたくなってしまう。

 

都会が良いとか、田舎が優れているとか、そういう話じゃないのかもしれません。自分にとってどちらが合うかというだけの違いで、居心地の悪い方に無理して寄ることなく自然体でいられる中で生きていければ素敵なのだろうね、と思います。